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書家 金子 鴎亭 >  作品一覧 >  書に興味をもったきっかけ

書に興味をもったきっかけ

書に興味をもったきっかけ

作品名

書に興味をもったきっかけ      

釈文

 大正五年の秋 私が江良小学校四年生のとき 飯田吉次郎先生が新しく私たちのクラスの先生となった 先生がはじめて授業に立たれた日に書き方の時間があった 半紙に「勤勉努力健康幸福」八字の清書にかかったとき 先生が後に立ってじっと見ておられた 次の日の朝 教室に入ったら私の清書が教室の後の板に張り出され 全部三重丸で 甲の上上と朱で書かれてあった 先生からみんなのまえでほめられ うれしさで胸がいっぱいになった また とても おもはゆくもあった これからのち 私は書き方の時間ばかりでなく 家でも習字にはげむようになった

こんなことから 私の心の中に書が深く根をおろし その後ずっと研究をつづけていたが 昭和四年に比田井天来先生にすすめられて東京に出て その門人となり 専門家としての修業をかさねた やがて昭和四十二年の春には日本芸術院賞を受賞した 私は今でも筆とるたびに江良小学校時代の絵のように美しいおもひ出にひたっている
昭和五十九年八月 東京新宿鴎夢庵にて 鴎亭

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